ニュースの概要
ネットメディアGIGAZINEの10周年を記念して、書籍『未来への暴言』と漫画9作品、合わせて10タイトルの電子書籍セールが始まった。Google Play ブックスとApple Booksでは通常価格から90%引きとなり、期間は11月10日まで。同じ作品群をAmazon Kindleストアでは50%引きで販売していると伝えられている。つまり、同じ本が店ごとに半額にも1割にもなる。一つの作品に複数の価格が並ぶ状況は、紙の本の再販制度とは違う電子書籍ならではの現象であり、売り手と買い手の双方に考えるべき材料を与えている。
引用元: Google Play ブックスとApple BooksでGIGAZINE作品などを90%割引(ライブドアニュース)
分析・見解
同じ本が店ごとに違う値段になる仕組み
電子書籍の価格は、出版社や著者が自由に決められる場合が多い。紙の本には再販制度(=定価販売を守る仕組み)があるが、電子書籍は法的にその対象外と整理されている。このため、各ストアとの契約次第で、割引率を店ごとに変えられる。今回の90%引きと50%引きの差も、この自由度から生まれたと考えるのが自然である。
さらに、セールの費用を誰が負担するかも店ごとに違う。出版社が値引き分を負うこともあれば、ストア側が販促費として一部を持つこともある。同じ作品でも、契約の中身が違えば表に出る値段は変わる。
90%引きは売上より「入口づくり」の施策
定価1,000円の本を100円で売れば、一冊あたりの収益は大きく減る。それでも実施する理由は、新しい読者との最初の接点を作れるからだ。特に漫画は、一巻を安く読んでもらい、続巻や関連作品の購入につなげる流れが定番である。10周年という節目を掲げることで、値引きの理由が明確になり、ブランドの価値を傷つけにくい。
大手ストアでは、セール中の作品が特集ページに載り、検索順位や推薦欄でも目立つ。割引率が高いほど露出が増える傾向があるため、数日間の高い露出を買う費用として値引きを捉えると分かりやすい。
割引率の差が利用者の行動を変える
Amazonだけが50%引きなら、利用者は安い方のストアへ移りやすい。普段Kindleを使う人でも、90%引きなら別のアプリを入れて買う価値がある。一方で、Kindleの本棚にすでに作品を集めている人は、買い替えや分散を嫌って50%引きでもそちらを選ぶ。ここに、電子書籍特有の囲い込みの強さが見える。
本の購入権は、特定のストアのアカウントに紐づく。だから乗り換えには手間がかかる。割引率の差は、その手間を上回る価値があるかどうかを試す、小さな実験の場にもなっている。
メディアが書籍を出すことの意味
GIGAZINEのようなネットメディアが10年を記念して書籍化するのは、読み捨てられやすいウェブ記事を、まとまった形で残すという意味もある。電子書籍なら在庫を抱えず、セールも即日で切り替えられる。今後は、記念日やニュースに合わせた短期セールを定期的に行う動きが増えると見られる。ただし、頻繁な値引きは「待てば安くなる」という期待を育てるため、実施の間隔と理由づけがますます重要になる。
ビジネスへの影響
自社コンテンツを複数の場所で売るときの価格設計
電子書籍に限らず、ソフトウェアやオンライン講座、資料集などを複数の販売経路で扱う事業者は多い。今回の例は、経路ごとに割引率を変えると利用者の流れが偏ることを示している。まず、各経路の手数料と、利用者が普段どこで買うのかを一覧にしておくとよい。そのうえで、集客に使う経路だけ大きく割引し、主力の経路は小幅にとどめるなど、役割を分けた設計が現実的である。
値引きを「理由付きの期間限定」にする
割引は、理由と期限がはっきりしているほど効果が高い。周年記念や新刊発売など、誰が見ても納得できる理由を添えると、通常価格の信頼が保たれる。逆に、理由なく何度も値引きすると、定価で買う人が減っていく。年に数回、告知を大きくして短期間で行う形が無難だ。
効果測定の指標を事前に決めておく
売上の増減だけで成否を判断すると、見誤りやすい。新規購入者数、続編や関連商品への移行率、メールや会員の登録数など、値引きの目的に合った数字を事前に決めておきたい。セール終了後の通常価格での売れ行きも見るべき指標である。小さな規模でもよいので、一つの商品で試し、結果を記録して次に活かす姿勢が、価格判断の精度を高める。
