ニュースの概要
オーバーラップは、同社のライトノベルとコミックスを対象にした「秋の読書フェア」を10月10日から始めた。期間は18日までで、対象作品が通常価格より安くなるほか、無料で読めるものもある。実施するのはKindle、コミックシーモア、BOOK☆WALKER、ebookjapan、LINEマンガ、Google Play ブックス、honto、Reader Storeといった主要な電子書籍ストアで、特定の一社に限らず、複数のサービスで足並みをそろえて開催される点が特徴だ。読者は普段使うアプリのまま、気になっていた作品を試せる。出版社が自社作品を軸に、ストアをまたいで同じ期間に値引きをそろえる形だ。
引用元: Kindleでオーバーラップ作品の秋の読書フェアを開始(ファミ通.com)
分析・見解
特定ストアに偏らず、全ストアで同じ日に値引く設計の意味
電子書籍のセールは、ストアごとに別々の日程で行われるのが長く当たり前だった。主役はストア側で、出版社は参加する立場だったからだ。今回は出版社であるオーバーラップが主役になり、8つ以上のストアに同じ期間を割り当てている。読者はどこで買っても、同じ日に同じ値下がりに出会える。特定の会員だけが得をする仕組みではなく、出版社の作品そのものを前面に出す設計だといえる。
読者側から見ると、これは比較の手間が減ることを意味する。以前はストアごとの価格やポイント還元を見比べる必要があった。今回のように価格がそろうなら、選ぶ基準は「普段のアプリで読めるか」だけになる。
無料と割引を並べるのは、シリーズの続きを買ってもらうため
ライトノベルもコミックスも、シリーズ物が中心である。たとえば1巻を無料にし、続きの巻を割引で並べれば、読者は「もう少し読みたい」と感じたときにすぐ買える。最初の一冊を入口にして、シリーズ全体の売上を伸ばす考え方だ。いわゆるフリーミアム(=一部を無料にして、残りで収益を得る手法)に近い。試し読みは数ページで終わるが、無料の1冊は物語の区切りまで読める。その差が、購入への迷いを減らす。
ただし無料の作品が増えすぎると、通常価格で買う読者が待つ癖をつけるおそれもある。期間を区切り、対象を絞れば、その副作用は抑えられる。
秋の9日間に、読書の季節感と週末2回を重ねた形
10月10日は土曜日、18日は日曜日にあたる。つまり期間中に週末が2回あり、じっくり読む時間を確保しやすい。「読書の秋」という言葉は広く浸透しており、紙の書店でも秋のフェアは定番の企画だ。紙の売り場で長く続いてきた手法を、電子の棚に持ち込んだとも読み取れる。期間が9日間と短いのも重要だ。終わりが見えるからこそ、「あとで買おう」が「今のうちに」へ変わる。
値引きの本当の価値は、埋もれた過去作が表に出ること
電子書籍の棚には広さの限りがない。その分、新刊の山に埋もれた既刊は見つけてもらいにくい。フェアは、ストアのトップ画面や特集ページの目立つ場所を一時的に使える機会になる。値下げ幅そのものより、「表に出る」ことの価値のほうが大きいかもしれない。複数のストアが同じ出版社の特集を組めば、普段は目に入らない作品にも光が当たる。人気作の追い風を、同じ出版社の別の作品へ分ける装置としても働く。
ただし、フェアが終われば価格は元に戻る。そのとき読者の本棚に残った作品が、次の新刊の買い手になるかどうかが本当の成果だ。
ビジネスへの影響
複数の販路に同じ施策を重ねるときの進め方
自社で作品や商品を持つ事業者にとって、今回のやり方は応用しやすい。販路が複数あるなら、日程と条件をそろえて一斉に動くほうが、告知が一本化できて効果を測りやすい。ストアごとに別の企画を走らせると、どの施策が効いたのか分からなくなる。まず期間・対象・値引き幅を一枚の表にまとめ、各販路へ同じ内容を渡すところから始めたい。また、各販路の担当者に目的を共有しておくと、現場が迷わない。
無料提供は「入口の商品」と「出口の商品」をセットで設計する
無料や大幅割引は、それだけでは利益を生まない。入口となる商品を無料にするなら、続きを買える出口の商品を同時に見える場所へ置くことが欠かせない。たとえばソフトウェアなら無料版の隣に有料版の案内を、講座なら第1回の無料公開の直後に全編の申込み案内を置く。無料の数を追うのではなく、無料の後に何人が次へ進んだかを必ず記録しておく。
期間を9日間のように短く切るのも、実務では有効だ。長引く値引きは「いつもの価格」と見なされ、通常価格の信頼を損ねる。
終了後の数字を見て、次の企画の元にする
フェアの成否は、期間中の売上だけでは分からない。終了後の2週間から1か月で、同じシリーズの購入や新作の予約がどれだけ増えたかを見る。ここで差が出れば、次回は無料の対象を変える、値引き幅を調整するといった判断ができる。小さな事業者でも、自社サイトの販売ページと外部のモールを同じ日程でそろえるだけで、同じ検証ができる。まず次の1回で、日程をそろえて試してほしい。
